ジャケットのルーツは、古く貫頭衣に端を発します。貫頭衣とは、簡単にいうと長方形の布袋の開口部を下にし、首・両手の出る部分に切り込みを入れたものです。
これがしだいに洗練され、まず袖がつくようになりました。ついでクルーネック状の首周りが窮屈なところから、前側に縦方向の切り込みを入れて窮屈感をなくし、さらに脱ぎ着がしやすいよう裾側まで切り込むことで前開きの服になっていきました。
このスタイルがさらに洗練され、切り込みを入れただけの状態から、別布でカフスをつけるように。また前開きを留めるために、木の枝やツノ、竹など細長いものを使ったトッグルボタンや、ボタンホールを開けるとともに貝殻、薄く輪切りした木や角、青銅などを付けたボタンが誕生しました。この時期のジャケットは、現代の詰襟に近いスタイルだったといえます。
首元が窮屈でいかついイメージのあるこのスタイルは、やがて暖かい季節には上部のボタンを外し、折り返して着るのが一般化。そして服の仕立て自体も、折り返して着ることを前提とした形へと変化していきました。折り返した部分は襟となり、元に戻らないよう折線で縫いつけ、こうして今日のジャケットの誕生につながったのです。
なお、折り返した左襟の部分にはボタンホールがなごりとして残り、一方の右襟のボタンは、ボタン止めが露出して邪魔になり見た目も悪いなどから廃れていきました。
また、その後ボタンホールは伊達男たちによってバラなどの花を挿すおしゃれポイントとなり、また公式行事の際に身分や所属をあらわすきらびやかな襟章をつけるなどの意味付けがなされたことから、現在まで残っています。
これがボタンホールをフラワーホールとも称する所以です。伝統を誇るメーカーの服では、いまだに襟裏のボタンホールの下に花を留めるための紐が誇らしげに付けられています。